[相談]
・90歳の父から、父が所有する築40年の木造賃貸用アパート一棟の贈与を受けたい。
・アパート建築費用についてのローンは、父が完済している。
・アパートの固定資産税評価額は300万円。通常の取引価格は600万円。
・アパートの入居率は100%で、父は入居者から敷金として総額50万円を預かっている。
父との間では贈与について合意ができているため、近日中に所有権移転登記を行いたいと考えています。
このアパート贈与について留意すべき事項はありますか?
[回答]
ご相談の場合、アパート贈与と同時に90歳の父から60歳男性へ敷金相当額の贈与を行わない場合、負担付贈与となります。
その場合、アパートの通常の取引価格600万円から敷金相当額50万円を控除した価額が贈与税の課税価格とされます。
[解説]
1.負担付贈与とは
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基礎として計算します。
この1年間に贈与を受けた財産の合計額を「贈与税の課税価格」といいます。このとき、贈与を受ける条件として受贈者が贈与者の債務を引き受けることを「負担付贈与」といいます。
この場合の贈与税の課税価格の計算については、受贈者が引き受ける債務の額を贈与財産の価額(負担がないものとした場合におけるその贈与財産の価額)から控除できることとされています。
2.負担付贈与により取得した家屋の評価額(原則)
かつて、家屋等の不動産の通常の取引価額と相続税評価額との開きに着目し、負担付贈与を利用した贈与税の税負担回避行為が行われていたことがありました。
このため、国税当局は税負担の公平の観点から、「家屋等のうち、負担付贈与により取得したものの価額は、その取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」という措置を講じています。
3.敷金相当額を同時に贈与した場合
判例・通説によりますと、賃貸中の建物について所有権の移転があった場合には、旧所有者(90歳の父)に賃借人が差し入れた敷金が現存する限り、たとえ新旧所有者間に敷金の引継ぎがなくても、その建物の新所有者は当然に敷金を引き継ぐとされています。
ご相談の場合、旧所有者が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、新所有者に対しアパートを贈与した場合には、法形式上は負担付贈与に該当することとなります。
ただし、国税当局の見解によりますと、旧所有者が返還義務を負っている敷金に相当する現金の贈与を同時に行っている場合には、一般的にその敷金返還債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的な負担はないと認定することができる、とされています。
したがって、ご相談の場合については、アパートの贈与と同時に敷金相当額の現金贈与を行えば、実質的に負担付贈与には当たらないと解されるため、負担付贈与に関する上記2.の適用はないこととなります。
ご相談の贈与が負担付贈与に該当しない場合には、贈与税の課税価格の計算において、通常の取引価格ではなく、アパート建物の固定資産税評価額をその評価計算の基礎として用いることが可能となります。